横須賀の多様性を生かした子育てのまちづくりを

「子育てをする上で、
横須賀の市政になにを期待しますか?」

子育てや教育の現場で活躍する3人の女性にご意見をうかがいました。

  • 田中 清美さん
    お母さん業界新聞横須賀版編集長。地域で学び合うお母さん大学横須賀支局代表。
    田中 清美さん
  • 五本木 愛さん
    一般社団法人sukasuka‒ippo代表。障がい児者・子育て世代の情報サイトを中心に活動。
    田中 清美さん
  • 井上 芙美さん
    横須賀バイリンガルスクール代表。バイリンガルが身につく保育・学童教育を実現。
    田中 清美さん

田中さん地域のお母さんたちがつながれる活動を

田中さん 地域のお母さんたちがつながれる活動を

吉田:本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。まずは簡単に、みなさんの自己紹介からよろしくお願いいたします。

田中:「お母さん業界新聞」という、子育て中のお母さんたちを応援する新聞の横須賀版の編集長をしています。6年前から携わり、地域の情報や市の審議会で話し合われた内容などをわかりやすく噛み砕いて発信しています。

吉田:6年前に新聞を始められたきっかけは、何だったのですか?

田中:私は結婚を機に21年前に横須賀に越してきたのですが、最初は周りに誰も知り合いがおらず、夫は仕事で長期間家を開けることが多くて、2年ぐらい孤立して子育てをしていました。子どもが幼稚園に行くことで、やっと地域のお母さんたちと交流できるようになり、横のつながりがあることのありがたさを身に沁みて実感しました。ですから、そんなふうに子育て中のお母さんが孤立していたり困ったりしたときに、何か助けになって、コミュニティにつながるきっかけが作れればいいなと思ったんです。

吉田:ご自身が子育て中の孤立を経験されたんですね。ありがとうございます。では、五本木さんよろしくお願いします。

五本木さん障がい児者が自立できる仕組みづくりに向けて

五本木さん 障がい児者が自立できる仕組みづくりに向けて

五本木:私は、横須賀のバリアフリー子育て情報局として、障がい児者やその家族が必要とする情報を集めて発信したり、思いなども共有できるサイト「sukasuka‒ippo(すかすかいっぽ)」の代表をしています。高校1年生の長男を筆頭に4人の子どもを育てているのですが、4番目の小学校1年生になる娘が、アンジェルマン症候群という遺伝子疾患を抱えて生まれてきました。その娘が通った横須賀市療育相談センターの通園部門のひまわり園で、保護者会の役員を務めさせていただく中で、障がい児を育てている親御さん同士のコミュニティや情報交換の場が必要だというニーズがあり、当時の役員会のメンバーが中心となって1年前にインターネットサイトを立ち上げました。

吉田:ひまわり園の役員さんたちで立ち上げられたんですね。

五本木:もともとは「ひまわり通信」という、園の保護者向けの配布物だったんです。そこで市の会議に出た内容や防災施策など、障がい児者の生活に役立つ情報をやさしい言葉に置き換えて伝えていました。将来的には障がい児者たちの親なき後まで考え、その人がその人らしく、安心してこの横須賀で生きていけるそんな場所や仕組みを作ることを目標にこの4月から一般社団法人を設立しました。

吉田:私は実は子どもの頃、逗子の障がい児学童に通っていたんです。両親が共働きで、家から一番近い学童がそこだったので。ですから放課後に過ごす友だちは、知的障がいや他の障がいがある子どもたちばかりで、みんなで一緒に野球をしたりして遊んでいました。横須賀市長になったばかりの頃、当時通っていた施設の周年記念でうかがったのですが、そのとき改めて感銘を受けたのが、そこにいるお母さんたちがみんな笑顔で明るくて、ものすごい幸福感に包まれていることです。五本木さんも、いつお会いしても明るいですよね。ご家族がお子さんの障がいを受け容れるプロセスや、育児や介護の負担はものすごく大変だと思うのですが、五本木さんのその明るさやエネルギーはどこから来るのでしょうか?

五本木:やっぱり娘のパワーだと思います。娘や娘のお友だちからもらえるパワーはすごく大きくて、普通の人生では得られない幸福感が得られている気はします。うちの娘は、疾患の特徴で発語がなくて、しゃべることは一生できないと言われていますが、それでも毎朝娘に「おはよう」と言い続けていたら、昨日初めて「あよー」と返事があったんです。それだけのことが、どれだけ幸せか! 娘は娘なりのペースで、歩みはゆっくりかもしれないけれど少しずつ成長している。そのちょっとした変化が、とてつもなく大きな喜びになっています。私自身、娘が1歳の頃に障がいに気づいて、それを受け止めて受け容れるのに本当に時間はかかりましたけれど、娘のおかげでいろいろなことにチャレンジしたり、こんなことを実現したい、こんな未来を創りたいという人生の活力をもらっています。

吉田:五本木さんのお話を聞いていると、こちらも勇気づけられます。ありがとうございます。では、井上さん、お願いします。

井上:私も今のお話に聞き入っていました(笑)

五本木:最初からアクセル全開で、ごめんなさい(笑)

井上さん横須賀ならではのバイリンガル環境を実現

井上さん 横須賀ならではのバイリンガル環境を実現

井上:私は2013年の末から「横須賀バイリンガルスクール(YBS)」を立ち上げて、英語と日本語が両方使える保育・学童・キッズ英会話などを行っています。横浜から横須賀に引っ越してきたときに、閉園する横須賀の認可外保育園の保護者の方から「困っているんだけど、運営できない?」と頼まれたんです。行ってみたら、生徒は日本人2人とアメリカ人1人だけしか残っていなくて、その3人が日本語・英語混じりでおもちゃの取り合いをしていた。それを見た瞬間に「この環境、面白い!」と思ってお引き受けしたのが始まりです。

吉田:そうだったんですね、その経緯は知りませんでした(笑)

井上:そういった経緯で保育園としてスタートしたら、最初に米軍基地のアメリカ人の入園者が増え、アメリカ人のお母さんたちから困りごとをいろいろ相談されるようになったんです。横須賀には2万人ぐらいアメリカ人が住んでいますが、みなさんベースの中からあまり出てこられないですよね。

五本木:そうですね。

井上:話を聞いてみると、日本で言葉が通じない、日本の常識がわからない、という経験が積み重なって、やがて引きこもってしまうんです。例えば、あるお母さんは、子どもが学校の実習で豆乳を使うからと、お店に買いに行ったんですが、豆乳にラムネ味とかコーラ味とかたくさん種類があって何を買っていいかわからず、結局買えなかったと言って落ち込んで帰ってきました。「自分は日本で豆乳1つまともに買えない……」って。そういう小さな出来事が重なって、彼らは自分たちがマイノリティだと感じてしまうんですね。

一同:なるほど。

井上:アメリカといっても、かなり田舎のほうの出身の方たちも多いので、言葉が通じない、常識がわからないということが怖いんです。ところが、YBSで日米の子どもたちをフラットに受け入れる教育を始めてみると、一緒に遊んでいるうちに両者の間の見えない壁がふっと消えて、それまで苦手だと思っていた日本が第2のホームカントリーになる瞬間があります。そんなふうに垣根がなくなって世界が広がる経験をたくさんの子どもや大人に持っていただきたくて、YBSではアメリカ人にも日本人にも日本語と英語を両方分け隔てなく教えています。

行政は縦割り、でも生活はすべてつながっている

吉田:みなさんの活動や、活動を支える思いをお話しいただき、ありがとうございます。横須賀に暮らす人たちのこういった思いをお聞きすると、横須賀って素敵なまちだなと心から思います。そういったみなさんの活動を踏まえて、横須賀市役所に期待することをお聞かせください。

田中:市役所って、障がい児者、高齢者福祉、子育て…と縦割りじゃないですか。でも生活は全部つながっているんですよね。だからこそ、もっと横のつながりがあればいいのかな、と感じます。

五本木:そうですね。例えば、障がい児者が暮らしやすい市は、赤ちゃんからお年寄りまでみんなが暮らしやすいと思うんです。市の行政がそんなふうにシームレスにつながって、いろいろな立場の人が「横須賀って住みやすいよね」と言えるようになればいいですよね。

井上:市が行った施策では、私は個人的に2015年から行われている「イングリッシュキャンプ」に感謝しています。イングリッシュキャンプに参加したことがきっかけで、あれを夏だけでなく毎週やりたいという思いが生まれて、YBSで土日に開催するようになりましたから。開催日には、都内や横浜の人たちや、遠く仙台からも参加してくれています。横須賀市の取り組みが、そのように日本の他地域にもつながって広がっています。

横須賀だからこそ可能な養子縁組の意識変化

横須賀だからこそ可能な養子縁組の意識変化

吉田:それは素晴らしいですね。ところで、「つながり」ということに関連してお聞きしたいのですが、私が横須賀市長として取り組んできたことの中に、特別養子縁組制度や社会的養護というのがあります。生まれてすぐ施設に預けられた子どもと、子どもが欲しいカップルをつなげる特別養子縁組や、施設で育つ子供たちに講師を派遣して勉強の支援や就学支援を行ったり、最近は地域の企業にご協力いただいて就職支援なども始めています。この「社会的養護」というのは、まさに地域のつながりを生かしてそうした子どもたちを自立に向けて育てていく考え方です。そういった取り組みに対する、みなさんのご意見をお聞かせください。

井上:アメリカは養子縁組が盛んなので、YBSの生徒にも大勢います。親子で人種が違うことも珍しくありません。そういう環境にいると、日本人のお母さんたちにもだんだんそれが普通になってくるんです。そのように多様な生き方をしている人たちがすぐ身近にいるのは、横須賀ならではの強みだと思います。

田中:日本は養子を迎える家族側のハードルが高くて、実現までの道のりが難しいと聞いています。そこがネックになっていたりはしませんか?

吉田:そこは少しずつ変わってきていて、例えば、養子縁組のトライアル期間に育児休暇を取れるように法律も変わりました。横須賀市では、国の法律が変わる以前からトライアル期間に育休を取れる制度をつくっていましたが、今後もまだまだハードルを下げる努力は必要だと感じています。

身近にいれば「当たり前」になる

田中:地域のお母さんたちに向けても、養子縁組や施設の子どもたちの暮らしぶりの情報発信を積極的に行って、そうした情報に触れる機会が増えれば、先ほどの井上さんのお話のように身近で普通のことになってバリアフリーの感覚が広がっていくのではないかと思います。同じように、障がい児者についても、もっと情報を知ることで一般のお母さんたちも子育ての幅が広がったり、子どもとの関わり方がプラスに変化していったりするのではないかと思います。

五本木:そうですね。養子縁組の取り組みも「当たり前になる」ことがカギだと思います。例えば、知り合いの子が養子だと知ると、日本では「え、養子なの?」という、何かあまり触れてはいけないみたいな感覚があって、それは「え、お子さん障がい児なの?」というのと一緒だと思うんです。井上さんがおっしゃるように、アメリカの方って障がい児者の受け入れもフラットじゃないですか。ごく普通に、当たり前にみんなの中に混ざっている環境。それはすごく羨ましいと思うし、養子縁組もわからなさから生じる偏見を取り払っていくことが大事なのではないかと思います。

吉田市長が背中を押した『みんなの学校』上映会

吉田市長が背中を押した『みんなの学校』上映会

吉田:なるほど、養子縁組や施設の子どもたちへの支援と障がい児者への支援もそのようにつながっているわけですね。ところで五本木さん、障がいに対する偏見や垣根は、どうすれば取り払えるとお考えですか?

五本木:幼少期からともに過ごすことだと思います。それしかないと思っています。その実現に向けて実は今、『みんなの学校』という映画の上映会を市内の小学校で順次行っています。この映画は、大阪の府立小学校のドキュメンタリーで、そこは支援級がないんです。健常な子どもも障がいがある子どもも同じ教室で一緒に学んでいる。昨年9月に保護者300人を対象に上映会を行ったところ、アンケートで「この映画をぜひ子どもに見せたい」という声が非常に多かったので、小学校での巡回上映を始めました。映画を観た5、6年生の感想文がどれも素晴らしくて、ぜひ吉田市長にも目を通していただきたいです。この映画を観た子どもたちがやがて大人になり、障がい児者が身近にいることが当たり前と感じる大人が増えれば、社会の環境は必ず変わっていくと信じて取り組んでいます。

田中:私もそう思います。

五本木:実は私、この取り組みでは市長にとても感謝しているんです。昨年9月の上映会では、この活動をどこまで広げていいか不安でしたが、市長が「横須賀で、これだけ福祉のことでがんばっているお母さんたちがいることを、市外にも広めようよ!」とおっしゃって背中を押してくださったのがとても心強かった。こちらを見てくれて、知ろうとしてくださるのがありがたかったし、今後もそのようなスタンスでいていただけたらと思います。

子育て中の「孤立化」はどうすれば防げるか

子育て中の「孤立化」はどうすれば防げるか

吉田:そのように言っていただいて恐縮です。もう1つ、地域の子育てのキーワードに「孤立化」というのがあります。ちょうど「つながり」の反対ですね。先ほど井上さんが語られた、米軍のアメリカ人のお母さんたちが地域でマイノリティになってしまっていること、そして田中さんが最初におっしゃっていた地域に知り合いがいない中での子育てで感じる孤立など、さまざまな孤立化はどうすれば防げるとお考えですか?

田中:草の根運動的にコミュニティにつながるきっかけを発信し続けることだと思います。横須賀は基地のまちで、米軍だけでなく自衛隊の関係者も多いですよね。私の主人も自衛官で、ずっと船の勤務で出ていて留守がちな中、子ども4人を一人で育ててきました。だから長女が生まれた頃は本当に孤立していて、切羽詰って娘につらく当たってしまったこともあり、当時のことを思うと今でも胸が苦しくなってしまいます。基地関係者でなくても、横須賀から都内まで1時間半以上かけて通勤している方々も大勢いらっしゃいます。朝早く家を出て、夜遅く帰って、日中ほとんどお父さんがいない状況の方も本当に多いと思うので。

五本木:本当に。

吉田:やはりカギは「コミュニティ」のつながりですか。

横須賀の持つ「多様性」が孤立化解消のカギに

横須賀の持つ「多様性」が孤立化解消のカギに

井上:「多様性のあるコミュニティ」であることが重要だと思います。例えば、シングルマザーの悩みは、シングルマザー同士で集まって話しても解決しにくいんです。YBSにはシングルマザーのスタッフも多くて、その中の一人が「子供が休みで、面倒を見てくれる人がいないので出勤できない」と悩んでいるときに、私ならちょっと暇そうな知り合いに声をかけて臨時で面倒を見てくれる人をすぐに探すことができる。シングルマザー同士だと、それぞれ仕事があるし、自分たちは自分たちで手一杯なので、なかなか解決できずにいるんです。

田中:立場の違う人がいると、異なる視点からすぐに解決できることって多いですよね。

井上:自分がどうしたらいいかわからない悩みでも、立場が違う人が見たら「そんなの簡単よ、私にまかせて!」ということってけっこうありますから。

田中:立場の違うお母さんや、シニアの方たちの視点に助けられることもあります。

井上:アメリカのお母さんたちからも、「そういう方法もあるんだ!」と視界が開けることがたくさんあります。そんなふうに立場や国籍が違う人たちがコミュニティでつながって、多様性の中から新しい文化が育まれ、熟成していく。それが可能なのが横須賀の強みであり、“らしさ”なのだと思います。

市民の潜在力とスキルをもっと活用して欲しい

田中:“まぜこぜ”いいですね。そこで吉田市長に今後期待することとしては、横須賀の市民の多様性が持つエネルギーやスキルを、なんとか上手い具合にまとめて、ともに地域をよくする活動に参加できるようにしていただければと思います。横須賀市民のポテンシャルはものすごく大きいと思うので。横須賀市の取り組みのPRや、情報発信の面などでも市民がお手伝いできることっていろいろあると思うんです。

五本木:そうですね。あと、障がい児者の生活の向上にもつながることで、私が市長に今後期待するのは、横須賀の特産品のブランディングです。北海道に障がい者の経済的自立に成功している事例があるんですが、そこでは町の特産物を障がい者たちが加工して、ブランド化して販売することで事業として成功している。それって横須賀でも可能ではないかと考えていて、横須賀には海も山もあって、漁業も農業もあるので、横須賀の特産を生かして障がい者が自分たちできちんと稼いで生活を支えられるビジネスモデルがつくれないかと、今いろいろ勉強させていただいているところです。ですから市長には、そうした横須賀ブランドや特産品の開発に力を入れていただけるとありがたいです。

「横須賀ってかっこいい」と言われるまちに

井上:吉田市長には、その若さだからこそできることに挑戦していただきたいと思います。横須賀市がかっこいい取り組みで話題になって、東京の知り合いなどに「横須賀市すごいね」と言われるとやっぱり嬉しいんですよ。

田中・五本木:わかります(笑)

五本木:「かっこいい」って大事ですよね。他県や他市から見て「横須賀っていいよね、オリジナリティがあるよね」と言われるような

田中:自分が住んでいる市がかっこいいと、市民はうれしいんです。横浜のような大規模な都市では難しいけれど、横須賀市の約40万人の規模だからこそできることっていろいろあると思うんです。横須賀は、その中堅都市の良さがいっぱい詰まっているまちだから、その特色をぜひ生かして欲しいですね。

吉田:たくさんのご意見、承りました。いろいろ評価していただていることも非常にありがたいですし、こうしてお話をうかがえたことで、みなさんからたくさんパワーをいただきました。まだまだ市長として取り組まなければならないこと、努力しなければならないことがたくさんあります。本日は、貴重なお時間をいただきまして、本当にありがとうございました。

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